以前から疑問だった。
作者は、なぜ太郎をお爺さんにしなければならなかったのか。
戻った世界で家族と再会しました。
玉手箱の中には宝物が入っていました。
そういった終わり方でもよかっただろうに。
だって、カメを助けるという動物愛護を実践したのだもの。
「見つめる鍋は沸かない」
速く、速くと急けば急くほど、沸かない。
その一方、鍋を火にかけて、少しの間の用事だったはずなのに…。
「ああ、噴いてる、噴いてる」
退屈しているときの時間は進まない。
熱中しているときの時間は、あっという間。
タイやヒラメの舞い踊りに、太郎は陶酔しただろう。
乙姫様は魅惑的だっただろう。
それまで経験したことのない耽溺的な生活。
時はあっという間に過ぎていった。
陸に戻り、かつての生活を取り戻せばどうなるかな?
ヒトの時間の中で再び生きることになる。
ヒトの時間は、ヒトの時間。
誰も同じ時間量の中で生きる。
玉手箱を開けたことで太郎は年老いた。
太郎は、ヒトとして帳尻を合わせることになった。
もし玉手箱を開けなかったら?
エイリアンとしてさ迷い歩き続けたかもしれない。
浜辺で泣く太郎を、カメが連れ戻しに来たかもしれない。
果ては、乙姫様と結婚してしまうかもしれない。
どのような時間の使い方をしてもヒトは年を取る。
「太郎はお爺さんになりましたとさ」とエンディングは寂しい。
自分のコミュニティーを失った太郎は可哀そうなのか。
一時でも華やかな世界に身を置いた太郎は幸せなのだろうか。