クルトン

小さい頃。
レストランでスープを選べと言われたら、何の迷いもなくポタージュ・スープを選んだ。
コンソメ・スープではなく。


当時、ポタージュと言えば、コーンかポテトだった。
今のように、ホウレンソウやニンジンが選択肢に入ることはなかった。


なぜ、ポタージュ・スープだったのか。
それは、あのクルトンにある。


小さな小さな浮き身。
舌の上を滑らかに流れるスープ。
スープを飲みながら、サクサクと快い触感のパン。


こんな、おいしいパン。
もっと入れてくれればいいのに、
と、願ったものだった。


今思えば、幼い欲求だ。
でも、そんな幼い欲求ほど、そして、叶わなかった欲求ほど、心に残る。


ここで、こうしてクルトンを作りながらそんなことを考えた。
大振りに切ったパンで作るクルトン。
今夜は、ポテトのポタージュ。
こいつを浮かべて、あの願いを少しは叶えてやろう。



<参考>

crotons [フランス語]

食パンの縁(ふち)を切り、白い部分を普通8ミリメートルくらいの角切りにして、上質の油で揚げたものである。種類は用途によって二つに分けられるが、賽(さい)の目切りにして揚げたものは、主としてスープ(ポタージュ)の浮き実に用いられる。丸く大形に切ったクルトンは、ステーキの下敷きにする。この場合、形を変えて鶏肉などの下敷きにも使われ、用途は広い。

本来の目的は、液体のスープを食べる合間にクルトンを食べて、舌の感覚を新たにして次の一口をおいしくするためである。