煙草を吸おうと、東京駅の喫煙ブースに入った。
煙草に火を点け、一息つくと、カップルが扉を開けて入ってきた。
狭いブースで、彼らは僕の真後ろに。
やおら、男性が話し始めた。
この距離だもの。
聞くともなしに、聞いてしまう。
「最近、ホタル族が激減してるんだって」
「えっ、部屋の中で吸えるようになったの?」
「もちろん、ダメ」
「じゃ、どこで吸うっていうの?」
「人のいないところ。建物の外。
暖かい時期は、ほとんどの人がベランダの戸を開けているでしょ。
自分の部屋に煙が入らなくても、他人の部屋に煙が入っちゃう。
だから、ホタルよろしく、ベランダで煙草を吸えないらしい」
「大変ね」
「あと、洗濯物に臭いがつくとかなんとか」
「スモーカーは、消えゆく人種かぁ」
「そうなんだろうね」
はぁ。
ため息交じりの、3本の煙。
いや、ひょっとすると、十数本かもしれないな。
狭いブースだから。
みんな、押し合い圧し合いで...。