「このお肉の脂、あまいのよね」
デパートの肉売り場でウインドウの中を覗いていると、隣にいたおばさんがそう言った。
そのあまさは、もちろん、砂糖の甘さではなく、旨みに由来するもの。
調味料に仄かなあまさのある、あの感じ。
上質な脂身を口にすると、「ああ、この肉、大切に仕上げられたんだな」と思う。
多少値が張っても、「たまに食べるんだからさ」と理由をつけて、買い物かごに入れる。
僕の歳になると、「おいしいものを少しずつ」口にすれば、もうそれで、お腹がいっぱいになる。
もはや、食欲凄まじき高校生ではない。
厚めの肉を切り分けて、何人かで食べる。
一切れ、二切れでいい。
このロース、脂がうまいんだ。
ほんと、脂があまくて。
トロロ。